CT検査の限りない創造を目指して

第31回岩手県CT研究会を開催しました

日時 平成28年9月3日(土)13:00〜17:00 
場所 岩手県立遠野病院
テーマ「16列CTの底力FREE TALK SESSION」
参加者73名


平成
2893日、岩手県立遠野病院にて第31回岩手県CT研究会を開催いたしました。

中部地区の遠野開催は、岩手県CT研究会としても初めてになります。

民話のふるさと遠野市の郷土にふれながら美味しいジンギスカンと旨いお酒を求めての企画としました。

今年の夏は、8月に入ってからの猛暑の後、思いも寄らぬ台風の直撃を受けました。

本県沿岸北部での豪雨により河川が氾濫し、冠水、浸水、人命をも奪い、大きく交通網を遮断した甚大な被害となりました。台風の進路が少しそれれば、内陸でも同様な被害が出たであろう事が容易に想像されました。

あらためて被害を受けられた多数の方々にお見舞い申し上げ、お亡くなりになられた方々へ心からご冥福をお祈りいたします。

今回は、県立遠野病院の佐々木技師長のご厚意により、研究会に先立ち施設見学が行われました。

1階の放射線部門は、広い共通フロアから各モダリティの各室へ通じ、技師の動線を考えた無駄の少ない施設設計となっていて、少ない人員で効率の良い運用が出来ていることを感じました。

テーマは「16列CTの底力 〜FREE TALK SESSION」という事で、被害の大きかった沿岸北部からの参加者も入れて73名と多数の参加をいただきました。

これも、企画していただいた当番世話人の三角さん、そして遠野病院のスタッフ皆様のお力のお蔭と感謝しております。

研究会の内容は、最新CT装置の性能、機能によるところではなく、16列CTを中心とした装置を使用している施設から、地域医療、チーム医療を支えているCT検査の現状等にスポットを当てました。

プログラムの始めに技術情報提供として、造影検査を取り巻く安全管理の実情と運用に関してお話をいただき、県内5施設からの施設報告、そして特別講演という構成で会が進められました。

 

技術情報提供では、根本杏林堂の荒木朋之先生より、どのようにすると安全な検査が行えるか、その背景と対策について自社で開発したシステム(造影剤モレ感知サポートシステムとCEエビデンスシステム)を通じて解説していただきました。その中でどのような問題によって事故が起こるのか考えたときに、人が係わる要員が大きい。具体的に確認不足、連携不足、判断ミスなどが最も多く、これらはそれぞれを補える必要なシステムを構築することでエラーを回避することができるとした。また副作用に関しては全てが防ぎきれる訳ではないが、患者さんに関する過去の副作用歴、喘息、腎機能情報、検査前の糖尿病薬休薬などは検査前に確認すべき事項となっているので、情報連携として必要な場所に必要な情報がすべて揃っている環境を構築することが重要となる。さらに検査情報を次回の検査に反映していくシステムも必要とした。

最後に、造影検査におけるリスクマネジメントの必要性について検討していただきたいとして締めくくった。

 

施設報告では、主に16列CTの経験と現状を中心に演者の皆様よりご発表がありました。

一関病院の高久健一氏から、 当院におけるディスコグラフィ後のCTについて報告が行われ、4年半で18件と少ないとしながら、その作成には3断面のMPRとディスコグラフィにおいては外側ヘルニアが殆どのため全体像把握のためにVR画像を作成しているとし、症例を数例提示していただいた。MRI後に外側ヘルニアを疑い、ミエログラフィ、ディスコグラフィCTを行い外側開窓術を行って症状が改善した例などが紹介された。ディスコグラフィのVR画像作成に苦労され、非常に難しいながらきれいな画像を作成されていることが印象的でした。手術加算2000点は算定されておらず、せっかく役に立つ画像を作成しているので今後算定できるか確認していきたいとした。

 

北上済生会病院 村上健一氏は、自施設で比較的件数の多い小児を取上げ、"新生児の頭部CT"について述べられました。病院の紹介では準NICUの機能ながら業務内容は正式なNICUと同じである事と、年平均30件くらいの撮影件数で、撮影対象児は低体重、人工呼吸器管理を行っているなど、何もない事の確認が主な撮影目的となっているとした。撮影時の注意点などポジショニングについて詳細な説明がされ、左右差を無くすこと、決して起こさないことなどポイントについて症例を示しながら解説いただいた。最近装置更新したばかりで、小児領域では特段に低線量撮影が求められるが、今後は低電圧撮影や水晶体を外す基準線等を考慮し、装置の性能や特徴をフル活用しながら最小限の線量で最大限の画像情報を提供でいるよう努力して行きたいと結んだ。

 

岩手県立大槌病院 岩渕正広氏には、"被災後の県立大槌病院におけるCT検査の変遷"という事でお話をいただいた。冒頭に大槌病院の歴史が紹介され、東日本大震災後5年間の仮設診療所を経たのちに現在の場所に新築移転されたという事であった。CT装置は現在で3台目となり16CTが稼働している。移転前の検査傾向としては平成24年をピークとして検査数が減少傾向であったが、その原因として震災後の人口の流出、仮設診療所としての機能しか有していない、単純のみの指示なので検査の幅が広がらない。等々を挙げました。使用装置の特徴的な機能やアプリに関して詳細に説明をされ、特にカルシウムスコアは医師からの強い要望で導入したもので、糖尿病の患者の冠動脈石灰化の有無を調べるのに非造影のこの検査を継続的に行っているとした。

まとめとしてVolume ECAIDR 3Dの連動で低線量域のザラツキの解消と被ばく線量軽減が可能になったとし、再構成処理速度が上がりSAG,COR作成の際の処理時間が短縮した。i-StationLook Guideを装備しているので、患者本人のリスク回避が出来るになったして締めくくった。 

 

滝沢中央病院 菊池健氏は、「16MDCTへの更新による当施設での経験」として基礎的な物理データを基に設定したプロトコルを中心にお話をいただいた。更新に伴い、逐次近似応用再構成を使用した検査が可能となり、AIDRDに加え新たにAIDRD Enhancedについて、どちらを使用するかの選択と撮影強度、再構成強度の使い分けを検討するため物理評価及び視覚評価を用いた詳細な検討をされて、ご施設で臨床応用するためにはどうしたらよいのか明確に出されておりました。自施設の装置の特徴を把握して撮影線量を決めて検査に結び付けている事は大変参考になりました。今後もさらに検出目標に合わせて条件を絞って検討を続けていただき、機会がありましたら肝臓などでご発表を継続して頂きたいとの座長のアドバイスで締めくくられました。

 

岩手県立軽米病院 夏井大介氏は、"県立軽米病院CT検査の現状"という事でお話をいただいた。始めに軽米町を紹介され、青森に近接する町なので、商業圏として盛岡よりも八戸へ行く方がはるかに近く、自ずと医療圏も同様である事が容易に想像された。軽米病院は町内唯一の病院(一般病棟60床、療養病棟が45床)で、二戸病院の地域病院として慢性期疾患や後方支援病院に位置づけられる。平成25年に16CTが導入され、検査件数が少ないので予約なしで検査を行い、平成27年度CT件数は、1289件(造影50件)、患者年齢層の三分の二は後期高齢者となっている事が紹介された。病院が特に糖尿病の教育入院に力を入れられている為、内臓脂肪測定を行っていて、MRIが無いため替わりにDICCTを行い、CTガイド下胃瘻増設もまれに行うとした。CT

査から読影報告までの流れとして、読影は二戸病院の先生に照射録と共に画像をPACS送信して依頼し、レポートは殆どはその日の内に返されるとした。全身系のダイナミック、特に肺塞栓などの検査では、クーリングタイムが発生する場合は、範囲を絞って行うという事もあり、造影検査が少ないので、医療スタッフ間で安全管理が上手く行き届かない事もあるとした。患者さんの高齢化につき拘縮の強い患者さんが多いのでその分ポジショニングが結構難しく、その改善策にも限界があるなどご苦労されている様子がうかがえました。最後は、軽米のゆるキャラで締めて頂きました。

 

特別講演は、遠野病院2名の先生方から2部構成で進められました。

第一部として、菊地隆正先生より遠野病院の地域医療の現状についてお話し頂きました。

座長の三角さんの紹介で始められ、菊地先生とは胆沢病院で一緒に勤務されていた時期があるということで、とてもパソコンにお強く、胆沢病院のHISRISの立上げや千厩病院のシステムの構築を手掛けられた凄い方です。

はじめに病院の概要を紹介され、病床数199、標榜診療科のうち常勤医が5名、他は応援となっていて、医師8名での夜間救急対応の他に多数の病院からの応援をいただいているものの、どの先生方も疲弊していっぱいいっぱいというのが現状とした。遠野病院からの主な転院先は、中部病院、岩手医大、他、救急での搬送時間が1時間余りかかるところなので、遠野病院での検査に要する時間を如何に短縮するかが重要になるとした。

また、当直医の医師の大半は応援医師のため遠野病院のシステムに不慣れであり、いざという時に不具合が生じることもあり、見慣れない先生とのコミュニケーションにはしんどいものがあり、夜間時の大変さがうかがえた。放射線と診療科が離れていて何かあった時の対応に苦慮され、救急の時に技師サイドで何か出来ないかと考えたときに、所見について医師、看護師から聞かれたりする場面もあるので大事な症例について今回解説していただいた。救急症例、30分で死んじゃうシリーズ編という事で、所見から病態、治療法、何が大事でなぜ急ぐのか、撮影時のポイントなど救急時に必要な知識が何故必要なのかという事を自身の知見を交えて具体的に分かりやすく解説していただいた。緊張性気胸、急性喉頭蓋炎、心タンポナーデ、フレイルチェスト、開放性気胸、大量血胸、急性大動脈解離、イレウス、骨盤骨折、四肢の骨折。どれについてもなるほど納得の明日からの検査に役立つお話でした。最後にDICOMのタグ情報について少し触れ、座長の紹介にもあったようにかなりパソコンに精通しておられました。後日改めて医療情報に関するご講演をお願いしたいと感じました。その節は、よろしくお願いしたいと思います。

座長から、救急撮影をするにおいては、画像を診たときにCTに限らず、その画像に対して気付きが必要だという事。積極的に医師の方へ話をしていくという態度が望まれる時代になって来た事。そのことを頭に入れて来週からの業務に活かして頂きたい。と締めくくられた。

 

第二部として、同じく菊池充先生より遠野方式在宅ケアシステムと在宅医療における]線撮影という事でお話し頂きました。冒頭、遠野と云えばということで、駅前の河童の交番と遠野ジンギスカンの発祥についての紹介にはじまり、そして遠野の在宅医療に繋げられました。在宅医療における多職種連携は各地で広まりつつあり、専門職が患者宅を訪問してケアを行う。在宅医療におけるケアを全国に先駆けて岩手で県立遠野病院が遠野市とともに1985年から取り組んできたのが遠野方式在宅ケアというもので、その立役者である現北岡理事(前遠野病院長)についての紹介がありました。訪問診療のきっかけは、病院に出向く事の出来ない人々をみて、来られないのならこちらから出向こうということで始まり、病院と同じ診察を受けられること、自宅を病室の延長上にする、最終的に診療や血圧、心電図、血液検査、尿検査、]線撮影など外来機能をそのまま出前する形を確立した。というものであるそうです。スライドの中で訪問診療の実際の様子について説明され、同行するスタッフは710名程度、病院から医師をはじめ、あらゆる職種のスタッフが一緒に患者宅を訪れるとの事でした。そして放射線技師は、他のスタッフが検査を進めている中、]線撮影のレイアウトを考えて、撮影の準備に入るそうです。訪問診療では]線撮影が最後になり、現在のエアロシステムでは、撮影後直ちに画像を確認でき、診断を行えるので必要に応じてその場で胸部以外にもお腹や腰椎の圧迫骨折などを容易に撮影できるようになっているようです。遠野病院の訪問診療における]線撮影についての成立ちは、開始当初は違法という見解のもとで行われていたが、それが公になった事で問題として取り上げられ、直接厚生労働省からクレームが入ったそうです。その後、県と厚生労働省の協議の末に法の改正か法の拡大解釈によって]線撮影を認める方向に進んだ事がきっかけとなっているという事でした。遠野病院はとてもすごい事を成し遂げたのだという思いで会場にいる皆が感じ入りました。スライドでの説明の後に、実際の撮影機器を会場に持ち込んでいただき、装置と撮影システムの説明がなされ、参加者の中から操作する技師と患者役を立てて実演が行われました。初めて触れる装置に、その重さと設置の危険性などを体験していただき、安全に検査を行うことの難しさが理解できたと思われました。また、実際の現場では、介護ベットから布団へ寝かせて撮影するためにスタッフの協力を得なければなりません。各家庭の状況が異なるため、機材運搬時のあらゆる気遣い、病院とは違う注意点など潜んでいるとのお話でした。

最後に菊池先生が訪問診療を通じて感じられたお話がとても印象的でしたので紹介します。

普段から病院では、職種間の壁を無くしたりとか透明性や情報共有をなどという事を良く耳にしますが、訪問診療においては、それらは当然のように意識しなくてはなりません。撮影にあたって患者さんを移動してもらったり、時には器械の運搬から設置まで手伝ってくれるスタッフもいます。自分は技師だからと言って器械をセットしてスイッチを押すだけで良いのでしょうか。そこには思いやりを持った感謝の気持ちを掛けてあげたり、看護師の横で必要なものを渡してあげたり、時には介護の方、患者さんの話に耳を傾けてたり、放射線技師としての仕事を当たり前の様に協働しなければ、チームとしてはとても成り立たないと感じました。それ以外にも見知らぬお宅へお邪魔しての撮影となりますので病院の様に不要なものは置かない。とはいかない。危険なものは至る所にあります。毎回違う環境で作業するにあたって、万能のマニュアルはあるはずもありません。患者さんや介護者へ失礼のないような対応をすることを含め、ある程度の気転を利かせること、自分自身で気付く注意力、人間的なスキルの様なものが必要なのかも知れないと考えさせられました。"

 

素晴らしいと思います。

お陰様で大変充実した研究会となり、あらゆる意味で勉強になった会だったと思います。

あらためて遠野病院の底力を実感しました。

この場をお借りし、世話人一同、関係者の皆様方へ厚く御礼申し上げます。

 

今後とも岩手県CT研究会をどうぞよろしくお願いいたします。



                                   



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